ChatGPTによるスクレイピングは危険?経営者が知るべきリスクと安全な代替策

「ChatGPTを使ってウェブサイトから自動で情報収集(スクレイピング)できないか?」という関心が高まっているようです。

ウェブスクレイピングとは、ウェブサイトからプログラムを用いて自動的に情報を抽出する技術です。ChatGPTの能力と組み合わせることで、データ収集を劇的に効率化できるのではないか、という期待が生まれるのは自然な流れかもしれません。

しかし、結論から申し上げると、ChatGPTはウェブスクレイピングを実行するための専用ツールとして設計されておらず、その直接的な利用には多くの問題が伴います。

この記事では、生成AI導入コンサルタントの視点から「ChatGPTとスクレイピング」を取り巻く現状を冷静に分析します。知っておくべき本当の可能性、無視できない重大なリスク(法的、技術的、倫理的側面)、そしてより賢明で持続可能なデータ活用戦略について、具体的かつ実践的な情報を提供します。

貴社のAI導入とデータ活用に関する意思決定の一助となれば幸いです。

ChatGPTでスクレイピングできる?

ChatGPTでスクレイピングできる?

「ChatGPTでスクレイピング」という言葉が一人歩きしていますが、ビジネスリーダーとして、その実態を正確に理解することが重要です。このセクションでは、スクレイピングのビジネス上の意味合いと、ChatGPTがどのように関与しうるのか、そしてその限界について解説します。

ウェブスクレイピングとは?

ウェブスクレイピングは、ウェブサイト上に公開されている情報を、ソフトウェアを使って自動的に収集するプロセスを指します。手作業で情報をコピー&ペーストする代わりに、プログラムがウェブページを読み込み、必要なデータだけを抽出します。

ビジネスにおける具体的な活用例としては、以下のようなものが考えられます。

  • 競合分析:競合他社の製品価格、サービス内容、プロモーション情報を定期的に収集・比較
  • 市場調査:業界ニュースサイトから最新記事の見出しやリンクを自動取得したり、ECサイトから特定商品のレビューを収集・分析
  • リードジェネレーション:業界ディレクトリやイベントサイトから企業名、連絡先などのリストを作成
  • 評判管理:ニュースサイトやSNSでの自社に関する言及をモニタリング
  • 求人市場分析:求人サイトから特定のスキルセットに関する求人情報を収集し、人材市場の動向を把握する

根底にある目的は、データ収集にかかる時間と労力を削減し、より迅速かつ広範な情報収集を実現することです。手作業では不可能な規模のデータ収集を可能にし、データに基づいた意思決定を支援する可能性を秘めています。

ChatGPTはスクレイピングツールではない

ここで明確にしておくべき最も重要な点は、ChatGPT自体はウェブスクレイピングを実行するツールではないということです。ChatGPTは、人間のように自然な文章を生成したり、質問に答えたりすることに特化した大規模言語モデルです。

ウェブサイトにアクセスして自動でデータを抽出する機能は、そのコアな能力ではありません。

単にChatGPTに「〇〇サイトをスクレイピングして」と頼むだけで、継続的なビジネスニーズを満たす信頼性の高いデータ収集が実現するわけではありません。したがって、「ChatGPTを使えば簡単にデータ収集が自動化できる」という期待は、現実的ではありません。

技術的なハードルと潜在的な不正確さを理解し、期待値を適切に調整することが不可欠です。

ChatGPTがスクレイピングに関連して「できること」を以下で説明します。

ここで重要なのは、ChatGPTはあくまで「指示」や「分析」を支援する存在であることです。スクレイピングそのものは、生成されたコードを実行したり、他のツールを利用したりする必要があります。

スクレイピング用コードの生成支援はできる

ChatGPTに指示(プロンプト)を与えることで、特定のウェブサイトから情報を抽出するためのプログラムコードの断片を生成させることができます。

  • Python言語でBeautifulSoupやRequestsといったライブラリを使用するもの
  • Google Apps Script (GAS)

例えば、「〇〇サイトの見出しを取得するPythonコードを書いて」といった依頼に応じて、サンプルコードを提示してくれます。

ChatGPTが生成したコードは、多くの場合、そのままでは動作しないか、不完全です。それを実際に動作させ、エラーを修正し(デバッグ)、ウェブサイト側の変更に対応させて維持管理するには、プログラミングの専門知識が必要です。

非技術系のユーザーにとっては、決して手軽な「プラグアンドプレイ」の解決策ではありません。

さらに、AIが生成するコードや分析結果には、常に不正確さのリスクが伴います。ChatGPTは時に、もっともらしい嘘(ハルシネーション)を生成することもあります。

このような不確実な情報に基づいて重要なビジネス判断を行うことは、大きなリスクを伴います。

Advanced Data Analysisによる限定的な支援も可能

ChatGPTの有料プラン(ChatGPT Plusなど)では「Advanced Data Analysis」(旧称:Code Interpreter)が利用できます。Advanced Data Analysisを使うと、特定のURLの内容を解釈させたり、アップロードしたHTMLファイルから情報を抽出・分析させたりすることが可能です。

しかし、これらの機能によるスクレイピング能力は限定的であり、汎用的なスクレイピングツールとして機能するわけではありません。また、プラグインの性能や信頼性にはばらつきがあり、期待通りに動作しないケースも報告されています。

ChatGPTによるスクレイピングの見過ごせないビジネスリスク

ChatGPTによるスクレイピングの見過ごせないビジネスリスク

ChatGPTを活用したスクレイピングは、一見すると効率化の妙案のように思えるかもしれません。しかし、その実行には、ビジネスの存続に関わる可能性のある、深刻なリスクが伴います。

ウェブサイト利用規約違反

多くの商用ウェブサイト、特に大規模なプラットフォームやデータベースサイトでは、その利用規約でスクレイピング行為を明確に禁止しています。例えば、Yahoo!ファイナンスは、株価データ等の機械的な取得(スクレイピング)をシステム負荷と安定提供への支障を理由に禁止しています。

サイトを利用することで規約に同意したとみなされる(みなし同意)という考え方もあります。

もちろん、ログインせずにアクセスした場合など、規約違反が直ちに法的な制裁に結びつくかは複雑な問題です。しかし、規約で禁止されている行為を意図的に行うことは、重大なリスクを伴います。

規約違反が発覚した場合、ウェブサイトへのアクセス禁止(IPアドレスブロック)、アカウント停止、法的措置(差止請求、損害賠償請求)につながる可能性があります。

OpenAIの利用規約違反

ChatGPTの通常のウェブインターフェース(chat.openai.com)を利用して、自動化された方法でデータを抽出する行為(スクレイピング、Webハーベスティングなど)は、OpenAIの利用規約で明確に禁止されています。

APIを利用する場合は異なる規約が適用されますが、それでも規約の遵守は必須です。規約違反が検知されれば、ChatGPTアカウントが停止される可能性があります。

著作権侵害

ウェブサイト上のコンテンツ(文章、画像、動画、データベースの構成など)は、著作権法によって保護されている場合があります。単なる事実やデータ自体は著作物とみなされないこともありますが、表現に創作性があれば保護対象となります。

スクレイピングによって収集したこれらの著作物を、無断で複製したり、自社のウェブサイトで公開したり、改変して利用したりする行為は、著作権侵害にあたる可能性が高いです。

さらに、ChatGPTのような生成AIが関わることで、問題はより複雑になります。

スクレイピングで得た著作権保護された情報を基にAIが新たなコンテンツを生成した場合、元の著作物との間に「類似性」(似ていること)と「依拠性」(元にして作成したこと)が認められれば、その生成コンテンツの利用も著作権侵害となる可能性があります。

著作権侵害には、高額な損害賠償請求や差止請求に加え、刑事罰(懲役や罰金)が科される可能性もあります。

不正アクセス禁止法違反

スクレイピングが、IDやパスワードが必要な会員制サイトへの不正ログインや、ウェブサイトのセキュリティ対策を回避して非公開情報にアクセスする手段として用いられた場合、不正アクセス禁止法に抵触する可能性があります。

懲役や罰金といった刑事罰の対象となります。

サーバー負荷と業務妨害

短時間に大量のリクエストを送信するような攻撃的なスクレイピングは、対象ウェブサイトのサーバーに過大な負荷をかけ、通常のユーザーがアクセスしにくくなるなど、サイト運営を妨害する可能性があります。

これは威力業務妨害や偽計業務妨害にあたる可能性があり、民事上の損害賠償責任だけでなく、刑事責任を問われるリスクもあります。

倫理的境界線とレピュテーションリスク

法律に抵触しないまでも、ウェブサイト運営者の許可なく、あるいは意図に反してデータを大量に収集する行為は、倫理的に問題視される可能性があります。これは、他者のデジタル資産や労力に対する敬意を欠く行為と見なされかねません。

また、スクレイピングの過程で意図せず個人情報を収集してしまうリスクもあります。

このような行為が公になれば、「不誠実な企業」「他社の迷惑を顧みない企業」といったネガティブな評判が広がり、顧客やパートナーからの信頼を失い、ブランドイメージが大きく損なわれる可能性があります。

情報の正確性と信頼性

スクレイピングで収集したデータが常に正確であるとは限りません。ウェブサイトの情報は古くなっている可能性もあれば、意図的に誤った情報が掲載されている可能性すらあります。

また、ChatGPT自体が生成する情報にも誤りが含まれる可能性があることは既に述べたとおりです。不正確なデータに基づいてビジネス上の意思決定を行うことは、極めて危険です。

ChatGPTを活用したスクレイピングの代替案

ChatGPTを活用したスクレイピングの代替案

前章で詳述したように、ChatGPTを活用したスクレイピングは多くのリスクを伴います。しかし、ビジネスにおいてデータ活用が重要であることに変わりはありません。

リスクを冒さずとも、ウェブ上の情報を合法的かつ効果的に収集・活用するための、より賢明な代替手段が存在します。

公式APIの活用:最も安全で確実な方法

多くのウェブサービスやプラットフォームは、外部の開発者や企業が自社のデータや機能にアクセスするための公式な窓口として「API(Application Programming Interface)」を提供しています。

APIを利用する最大のメリットは、合法的かつ安定的に、構造化されたデータを入手できる点です。サービス提供者が意図した方法でデータにアクセスするため、利用規約違反のリスクは基本的にありません。

データは通常、プログラムで扱いやすい形式(JSONなど)で提供され、仕様も文書化されていることが多いため、開発効率も高まります。

確かに、利用には料金が発生したり、利用回数に制限が設けられたりすることもあります。しかし、これは違法なスクレイピングのリスクを回避し、信頼性の高いデータを安定的に得るための正当な対価と考えるべきです。

多くの主要なSNS、市場データ提供サービス、クラウドサービスなどがAPIを提供しています。自社が必要とするデータを提供しているサービスに公式APIがないか、まず確認することが推奨されます。

専用スクレイピングツール・サービス

世の中には、ウェブスクレイピングを専門に行うための商用ツールや、スクレイピング代行サービスが存在します。これらのツールやサービスは、以下のようなスクレイピングに伴う技術的な課題に対処する機能を備えている場合があります。

  • ウェブサイトの構造変更への対応
  • IPアドレスのローテーション(アクセス制限回避のため)
  • データの整形・出力

これらを利用することで、自社でスクレイピングプログラムを開発・維持する手間を省ける可能性があります。

ただし、極めて重要な注意点があります。これらのツールやサービスを利用したとしても、スクレイピング行為の法的・倫理的な責任は、最終的に利用する企業自身にあります。

対象サイトの利用規約を確認し、著作権を侵害せず、サーバーに過度な負荷をかけないといった配慮は、ツール利用者自身が行わなければなりません。

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)

RPAは、人間がPCで行う定型的な操作(クリック、キーボード入力、アプリケーション間のデータ連携など)を自動化する技術です。RPAツールの中には、ウェブブラウザを操作して情報を取得する機能を持つものもあります。

社内システムや特定の許可されたウェブサイトとの間でデータをやり取りするなど、限定的な範囲でのウェブ操作自動化には有効な場合があります。

例えば、社内ポータルから情報を取得したり、特定の業務システムにデータを入力したりといった用途です。

しかし、RPAを外部ウェブサイトに対する大規模なスクレイピング目的で使用することは推奨されません。

RPAによる操作も、ウェブサイト側から見ればプログラムによる自動アクセスとみなされます。そのため、利用規約違反やサーバー負荷の問題を引き起こす可能性は、通常のスクレイピングと同様に存在します。

許諾済みをデータプロバイダーから購入

特定の業界データ、市場統計、企業情報、金融データなどが必要な場合、専門のデータ提供会社からデータを購入したり、ライセンス契約を結んだりする選択肢があります 。

例えば、Yahoo!ファイナンスはスクレイピングを禁止していますが、有償でデータを提供しています。

この方法のメリットは、データの合法性と品質が保証されている点です。データ収集に伴う法的リスクは完全に回避できますし、多くの場合、データは整理され、分析しやすい形式で提供されます。

初期コストや継続的なライセンス料はかかりますが、リスク回避とデータ品質を考慮すれば、十分に価値のある投資となり得ます。

[データ収集方法の比較表]

以下の表は、紹介したデータ収集方法と、リスクの高い「ChatGPT支援によるスクレイピング」を比較したものです。経営判断の参考にしてください。

データ収集方法 法的リスク 倫理的リスク 信頼性 データ品質 実装/コスト 最適な利用シナリオ例
ChatGPT支援スクレイピング 非常に高い 高い 低い 低い 中~高 推奨されない
公式API 低い 低い 高い 高い 低~中 推奨:サービス提供者が許可した方法での、安定的・合法的なデータ連携
専用スクレイピングツール/サービス 中~高 中~高 技術的課題をツールで補いつつ、利用規約・法令遵守が前提での限定的な利用
RPAによるウェブ操作 中~高 社内システム連携、許可された範囲での限定的な外部サイト操作自動化
許諾済みデータプロバイダー 低い 低い 高い 非常に高い 推奨:高品質な特定分野のデータが必要で、予算がある場合。リスク回避と品質保証

この比較からも明らかなように、公式APIの利用や許諾済みデータの購入は、法的・倫理的リスクが低く、データの安定性・品質も高い、ビジネスにとって最も推奨されるアプローチです。

専用ツールやRPAの利用は、その利便性がある一方で、依然として利用者の責任において慎重な運用が求められます。リスクの高いスクレイピングに安易に手を出す前に、これらの代替案を十分に検討することが賢明な経営判断でしょう。

まとめ

本稿では、ChatGPTとスクレイピングを軸に、生成AI時代のデータ活用における可能性と、そこに潜む重大なリスクについて解説してきました。

AI導入の成功は、技術そのものではなく、それをいかにビジネス課題の解決に結びつけるかにかかっています。リスクの高い手法に安易に飛びつくのではなく、自社の目標を明確にし、リスクを評価・管理し、目的に合った適切なツールとアプローチを選択する戦略的な視点が不可欠です。

生成AIの技術は日進月歩であり、法的・倫理的な側面も常に変化しています。自社だけで最適なAI戦略を立案し、リスクを管理しながら実行していくことは容易ではありません。

私たちは、最新の技術動向、法的規制、そして多様な業界での導入事例に関する知見を有しています。貴社の具体的なビジネス課題や目標をヒアリングし、リスクを最小限に抑えつつ最大の効果を発揮する、テーラーメイドのAI活用戦略の策定をご支援できます。

「自社のデータ収集プロセスを、安全かつ効率的に改善したい」
「AIを使って、具体的にどの業務から効率化を始めるべきかアドバイスが欲しい」
「AI導入に伴うリスクについて、専門家の意見を聞きたい」

このようなお考えをお持ちの経営者様は、ぜひ一度、弊社にご相談ください。

よくある質問

ChatGPTを使ってウェブサイトから自動で情報収集(スクレイピング)することはできますか?

ChatGPT自体はスクレイピングを実行するツールではありませんが、スクレイピング用のコード生成を支援することは可能です。しかし、ChatGPTのウェブインターフェースを自動化に使うことは利用規約で禁止されています 。

また、ウェブスクレイピング行為そのものには、対象サイトの利用規約違反や著作権侵害などの法的リスクが伴います 。安易な実行は推奨されません。

ウェブサイトから安全にデータを収集するには、どのような方法がありますか?

最も安全なのは、ウェブサイトが提供する公式APIを利用するか、信頼できるデータ提供会社から許諾されたデータを購入することです 。これらは法的リスクが低く、データの信頼性も高いです。

専用のスクレイピングツールやRPAも選択肢になり得ますが、利用する際は対象サイトの規約を遵守し、法的な問題がないか慎重に確認する必要があります 。