Webマーケティングに携わる皆様であれば、Perplexity AIの名前を一度は耳にしたことがあるかもしれません。そのPerplexityが満を持して投入したのが、AIブラウザ「Perplexity Comet」です。
しかし、Perplexity Cometを単なる「ChatGPTのようなAI検索ツール」と捉えると本質を見誤ります。Cometの真の姿は、AIによる回答エンジンとWebブラウザが融合し、さらにはPC上の作業を自動化する「エージェント」へと進化しようとする新しい概念のツールなのです。まずはその基本から見ていきましょう。
なぜPerplexityがマーケティングにおいて重要なのか、その仕組みを解説した記事はこちらをご覧ください。
目次
Perplexity Cometとは？
Perplexity Cometは、従来の検索エンジンとも受動的なチャットAIとも一線を画すPerplexityベースのAIエージェント型Webブラウザです。ChromeやEdgeと同じようにWebサイトを閲覧できるのはもちろん、ブラウザのサイドバーには常にAIアシスタントが待機しています。
AIアシスタントによって、開いているページの要約や、タブの整理（ワークスペース機能）などをシームレスに行えます。また、単に質問に答えるだけでなく、情報を能動的に収集し、その情報源を明確に引用・検証する能力を持ちます。
Cometは2025年7月に限定公開された後、世界中へと無料公開が拡大されました。
Perplexity Cometは回答エンジンとAIブラウザの融合
Perplexity Cometの核となるのは、AI回答エンジンであるPerplexityです。従来のGoogle検索がキーワードに関連する「Webサイトのリスト（リンク）」を提示するのに対し、Perplexityは質問に対して「Web上の最新情報を基に要約された回答」を提示します。
最大の特徴は、その回答が「引用元（情報源）」と共に示される点です。これにより、AIが生成した回答の信頼性をユーザーがすぐに確認できます。
Cometは、回答エンジンを標準搭載したWebブラウザなのです。
通常のPerplexity AI（Web版）との違いは？
「PerplexityのWebサイト（perplexity.ai）で検索するのと何が違うの？」と疑問に思うかもしれません。これは重要なポイントです。
Web版のPerplexityが「調べる（検索）」ことに特化しているのに対し、Comet（ブラウザ）は、あなたのPC環境とより深く連携し、「PC上の作業を自動化する」点に決定的な違いがあります。
Web版ではできませんが、CometブラウザではAIに対して「今開いているタブをすべて閉じて」「Gmailを開いて今日のタスクを確認して」といったブラウザやローカルPCの操作を含む指示が可能になります。このPCへの密着度の高さこそが、Cometを単なる検索ツールではない存在にしているのです。
Webの検索窓から指示するのではなく、ブラウザそのものに指示を出す感覚です。
Perplexity Cometの主要機能は？
Perplexity Cometが具体的にどのような価値を発揮するのか、その主要機能を解説します。
調査時間を短縮するPro Search
Comet Proユーザーが利用できるPro Searchは、高度なLLM（大規模言語モデル）を活用することで単なる情報検索以上の洞察（インサイト）の抽出を実現します。
Pro Searchは、ユーザーのなぜその情報が必要なのかという意図を理解し、実行可能な成果に直結する回答を提供します。
例えば、「顧客の潜在的なペインポイントに深く響く、競合がまだ手をつけていないニッチなブログトピックを根拠となる情報源とともに提案せよ」といった、実行可能な成果（アクション）に直結するプロンプトを設定することができます。
そのため、従来の調査に要していた時間を大幅に削減できます。
ファイルアップロードとComet Plusの連携
Comet Proユーザーは、事実上無制限にファイルをアップロードし、分析させることが可能です（1つのスペースあたり最大500ファイル）。
このファイル分析機能は、大量のデータ処理が必須となる資料分析にも柔軟に対応できます。
さらに、Perplexity社はComet Plusという新しいサブスクリプションを発表しました。Comet Plusでは、信頼できるパブリッシャーからのプレミアムコンテンツもリサーチの対象に組み込めるようになります。
Cometがこのサブスクリプションを提供することは、プラットフォーム自体がエンタープライズ顧客の高度なリサーチニーズに対応しようとしている戦略的な動きです。
エージェント機能があなたに代わって操作
Cometが目指す本丸は「Agentic AI（エージェントAI）」と呼ばれる機能です。Agentic AIとは、平たく言えば「指示するだけで、AIが自律的に判断し、Webサイトを“操作”してくれる技術」のことです。
例えば、Cometに「今夜、新宿で4人が入れるイタリアンを予約して」と指示したとします。エージェントAIは、あなたの指示を理解し、グルメサイトを検索し、空席を見つけ、予約フォームにあなたの情報（カレンダーや連絡先と連携して）を自動で入力し、予約ボタンを押す、という一連の操作を代行します。
これが、Cometが見据える未来であり、SEO専門家である私たちが直視すべき現実です。
なぜSEOでCometが注目されているのか？
では、なぜ私たちがこのCometの動向に注目しなければならないのでしょうか。
すでに始まっている「ゼロクリック検索」
SEOに真剣に取り組んでこられた担当者様ほど、今、この現実に直面しているのではないでしょうか。
「〇〇とは？」「〇〇のやり方」といった、これまでオウンドメディアで多くのアクセスを集めてきた「情報検索クエリ」。これらのクエリで、GoogleのAI Overview（AIによる概要表示、旧SGE）が回答の大部分をまとめて提示してしまうようになりました。
結果として、多くのユーザーは検索結果ページで回答に満足し、あなたのサイトをクリックしなくなってしまっています。これが、「ゼロクリック検索」です。
GoogleのAI Overviewは、長年かけて積み上げてきたコンテンツ資産からのトラフィックを、静かに、しかし確実に奪い始めているのです。
Perplexity Cometがゼロクリック検索の流れを加速させる？
Cometは、この「ゼロクリック検索」の流れをさらに推し進めます。
Googleは、まだ従来の「検索結果（10本の青いリンク）」と「AIによる回答」を併用・共存させようとしています。しかし、Perplexityは最初から「AIによる回答」こそが検索の主役である、と考えて設計されています。
ユーザーはCometの検索窓に質問を投げ、AIが生成した「要約と引用」を読み、満足すればそこで検索行動を終えてしまいます。
Cometがもし一定のシェアを獲得した場合、Google AI Overview以上に「サイトに訪問しない」検索体験が当たり前になるでしょう。これは、Webサイトへのトラフィック流入を前提としてきたビジネスモデルそのものを揺るがす事態です。
Perplexity経由トラフィックの質は？
Perplexity Cometは脅威である一方、そこには「機会」も眠っています。
現状、Perplexity、及びPerplexity CometからWebサイトへのトラフィックは、GoogleやBingと比べれば微々たるものです。しかし、複数の分析から、そのトラフィックは「非常に質が高い」可能性が指摘されています。
なぜなら、Perplexityをあえて使うユーザーは、特定のトピックについて「深くリサーチしている」最中である可能性が高いからです。
彼らはAIの要約を読んだ上で、その情報の「裏付け（引用元）」や「より詳細な専門情報」を求め、最終確認のフェーズであなたのサイトを訪れます。これは、購買や問い合わせ（コンバージョン）に極めて近い、高インテントなユーザーと言えるのではないでしょうか。
トラフィックの「量」は減る。しかし、残ったトラフィックの「質」は上がる。これが、AI検索時代の一つの可能性です。
CometとGoogle AI Overviewの違いは？
AI検索のプレイヤーはCometだけではありません。読者の皆様が最も気になるであろうGoogle AI Overviewと比較します。
Perplexity Comet：高精度リサーチャー
Comet（Perplexity）の強みは、一貫して「高精度なリサーチャー」である点です。AIが回答を生成する際、リアルタイムでWebを検索し、その最新情報で補強します。
Cometの回答は「情報が新しく、偏りが少ない（広告の影響を受けにくい）」15、「引用元が明確で信頼性が検証可能」13 という大きなメリットを持ちます。
Google AI Overview：Google経済圏への誘導役
Google AI Overview（AIO）は、Google経済圏（エコシステム）への誘導役として機能しています。
Google AIOの回答は、Cometほど中立ではありません。回答にはGoogleショッピング、Googleマップ、Googleフライトといった自社サービスへのリンクや広告が巧みに組み込まれます。AIを使ってはいますが、その本質は「商業的」 なプラットフォームです。
Google AIOの登場により、従来のGoogle広告やローカルSEO（MEO）が、AIの回答内で形を変えて継続する可能性が高い、と分析すべきです。AIという新しい技術を使っても、Googleのビジネスモデルの根幹は変わらないのです。
Perplexity Cometに引用されるための高度な戦略とは？
では、Perplexity Cometに「引用」される（＝LLMOを成功させる）ために、Perplexityでの注意ポイントに加えて何を意識すべきでしょうか。
LLMOの次に来るエージェント最適化（AXO）
LLMOは、AIに「情報」を引用させるための、いわば守りの戦略です。しかし、Perplexity Cometの「エージェント機能（Agentic AI）」に対応するには、さらに進んだ攻めの戦略が必要です。
それが「AXO（Agentic Optimization：エージェント最適化）」です。（AAIO: Agentic AI Optimization とも呼ばれます）
AXOとは、CometのようなAIエージェントが、Webサイト上で「タスクを実行（操作）」しやすいように最適化することです。LLMOが「AIに読ませる」最適化なら、AXOは「AIに操作させる」最適化です。
これはWebサイトの「作り方」そのものに関わる新しい概念です。
AIエージェントが操作しやすいWebサイトの条件
AIエージェントが、サイトで「セミナーに申し込む」「資料を請求する」といった操作を自動実行できるようにするには、どうすればよいでしょうか。
これは、技術的な領域に踏み込みます。
例えば、「資料請求フォーム」が複雑なJavaScriptで制御されているとAIは操作できません。AIが理解できる、シンプルで標準的なHTML構造で構築されている必要があります。
また、商品の在庫や価格、セミナーの開催日時といった「動的な情報」は、人間が見るデザイン（HTML）上だけでなく、AIが直接読み取れる「API」や「高度な構造化データ（Schema.org）」で提供されていることが理想です。
AIエージェントの時代には、人間向けの「見た目のデザイン」と同時に、AI向けの「マシンリーダブル（機械可読）」な構造が、コンバージョンを左右するようになるのです。
まとめ
Perplexity Cometを切り口に、AI検索がもたらす脅威と、私たちが取るべき対策について詳しく解説しました。
Perplexity Cometの台頭が示す未来は、私たちが慣れ親しんだ「検索（SEO）」のルールが根本から変わってしまう未来の到来です。
「ゼロクリック検索」 の増加により、従来のSEO戦略だけではトラフィックを維持することが困難になりつつあります。
しかし、これは「終わり」ではありません。「LLMO（大規模言語モデル最適化）」 という、新しいルールの「始まり」です。
この新しいルールに適応するには、コンテンツのあり方（LLMO）から、Webサイトの技術的な構造（AXO）まで、幅広く深い知見が求められます。
この大変動期を、貴社だけで乗り切ることに不安を感じていませんか？
自社のSEO戦略を、AI時代に合わせてどうアップデートすべきか、専門家の意見を聞いてみませんか？
私たちは、AI検索時代の戦略策定を支援するプロフェッショナルです。貴社の現状のWebサイトをLLMO/AXOの観点から分析し、次の時代も選ばれ続けるための具体的なロードマップをご提案します。
ぜひ、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Perplexityにも広告はありますか？
はい、Perplexityは広告を導入しています。
「広告がないクリーンな検索エンジン」というイメージがあるかもしれませんが、すでに広告ビジネスは始まっています。
ただし、Googleのような検索結果への「リスティング広告」とは形式が異なります。
Perplexityの広告は、AIの回答に続いて表示される「関連する質問（Related Questions）」の一部が、スポンサー枠（広告）になっています。これは、AIの回答（文脈）に関連した広告が表示される「コンテキスト連動型広告」であり、マーケティング担当者として注目すべき新しい広告フォーマットです。
Cometは日本語のリサーチや情報源検証に対応していますか？
Cometは高度な大規模言語モデル（LLM）に基づいているため、日本語での複雑なリサーチや、情報源の引用・検証においても実用的な精度を発揮します。
日本のニッチな業界情報に関する問いかけに対しても、情報源を明確に示しながら、信頼性の高い回答を導き出すことが可能です。今後のLLMの進化に伴い、さらに精度の向上が見込まれます。