GMOインターネットグループ株式会社決算資料の明快なまとめ
決算説明会資料・株主総会資料・会社説明資料などのIR資料作成担当者の方にすぐ役立つ情報をお届けします。
GMOインターネットグループ株式会社(以下GMO)は、インターネットインフラ事業を中心にインターネット広告・メディア事業、インターネット証券事業、モバイルエンターテイメント事業、暗号資産取引所事業を運営しています。本社を合わせるとグループ内で10社が上場しています。「お名前.com」「ムームードメイン」「ロリポップ」「GMOクリック証券」などは、誰でも聞いたことがあるサービスではないでしょうか?
GMOが2023年2月に発表した「2022年12月期 通期 決算説明会 資料」から、IR資料の最新動向を学びましょう。作り手の意図を読み手に正確に伝え、読み手のことをよく考えた明快で分かりやすい構成となっています。
会計ルールの変更での影響を先に示す
今回から、いわゆるIFRS(国際会計基準)が適用されることになり、売上の計上タイミング等が変わってきます。そのため、前年度の数字との単純な比較は意味を成しません。各社決算資料でどのような見せ方をするのか頭を悩ませていることだと思います。もちろんIR資料は厳密に正確な会計データに基づいていなければなりません。かと言って、IR資料の第一義はステークホルダーへのメッセージングです。ですから、会計上の厳密さを守りながらも、読み手にとっての見やすさ、わかりやすさを確保しなければなりません。その点で今回のGMOの資料は、会社として伝えたい点を明確に伝えていると言えるでしょう。
資料の作り手の視線で考えると、会計ルールの変更に限らず、資料全体に関係する変更点について資料内のどこで説明するかは頭を悩ます点ではないでしょうか?主に以下の3点で検討すると思います。
1. 資料の冒頭 → 初めに意識統一できるメリットはあるが、実例がないので分かりにくくなる可能性
2. 影響が出ている箇所で説明 → 実例と照らし合わせるのでわかりやすいが、変更点の説明のスペース確保が難しい可能性
3. 影響が出ている箇所で注釈し付録(appendix)で説明 → 資料として作りやすいが、注釈を嫌う読み手も多い
どれが絶対の正解と言うわけではありません。ルールの変更が与える影響の大きさ、影響を受けるページの多さなどを勘案して決めることになるでしょう。
頻繁にみるのは上記3かと思いますが、今回GMOの資料では1 資料の冒頭を選択しています。ほとんどの読み手がまず目にするであろう冒頭ページに「売上高計上ルール変更|影響」を置いています。きっと、今回の会計ルール変更が資料全体に影響を及ぼしていて、この点についてまず書き手と読み手の意識統一をしておくことがたいへん重要であると考えた結果だと思われます。読み手に余計な懸念や心配を起こさせたくないという気遣いがよく表れているすばらしい資料作成マインドだと思います。
加えて、今回の会計ルールの変更について、ルール変更の内容を長々と書いていない点がすばらしいです。つい、「IFRSがどうこう」とか「国際的な会計の基準に・・・」などといった企業視線での弁解や「言い訳」を並べたくなるところです。しかし、この資料を読むほとんどの人にとって、そのようなことは重要度はそれほど高くありません。それよりも「これ以降の決算数字をどう見ればいいか」のルールを明確に定めることが重要です。
その点、今回のGMOの資料の書き方は単純明快です。「どのようなルールで前年度の数字と比べているか」「ルールの変更によりどの数字が影響を受けているか(いないか)」が簡単に書かれています。これを書いてくれているだけで、読み手はこれ以降のページを書き手と同じテンションで読み進めていくことができます。
ごく簡単な要約と言えますが、GMOの資料はとにかく読者の思考をよく考えた要約が上手です。資料制作担当者が、制作全体をよく俯瞰して作業を進めていることがわかります。
従来デザインを踏襲して読み手の見やすさを確保
上記は、資料前半の目玉ともいえる結論と要約の最初のページです。GMOの決算資料は毎回この「結論と要約」の見せ方が明快かつ強力で、決算資料のお手本と言えるレベルです。
前述の会計ルール変更の説明がさっそくこのページで効いているのがわかります。いきなりこのページを見ると、少し複雑でわかりにくいと感じて、感情的に離脱してしまう読み手も多いのではないかと思います。しかし『「前年同期比(旧・旧)」を見ていればとりあえず比較できる』というルール付けが読み手の中で既に確立されているので、ここで脱落してしまう読み手はほとんどいないでしょう。
加えて、新基準での数字をフォントサイズアップ+ボールドで見せて、旧基準での数字(見てほしい数字)を白抜きでよりアイキャッチ-な形で見せているのも巧みです。
そして、このテーブルの形自体は前年度の資料の見せ方から大きく変更していません。以下は前年度の同ページです。
見せたい数字を最も目立たせるという手法も変わりませんし、テーブルの様式もほぼ同じです。ルール変更に伴い伝える情報が多くなり、資料の作り手としてはスペース確保に頭を悩ませたと思います。しかし、いたずらに様式を変えないことで資料としての連続性を守り、長期株主を混乱させない作りにしています。
ちなみに、ページに入れる情報としては昨年の同ページに「14期連続増収増益」を追加しています。それにも関わらず、まったく窮屈さを感じさせない情報配置スキルは見事です。
分かりやすさのバランス感覚
上記は各事業部門(子会社)の決算について要約したページです。一目で分かりやすい◎、○、△、Xで示されています。初めてGMOの決算資料を見る人であっても簡単に各事業の現況を知ることができるのではないでしょうか?
もちろん、各事業について細かい数字を追いかけて状況を確認したい株主もいるでしょう。また、社内でも各事業の担当者は自分の事業に関して細かい数字を出して、好調(不調)の理由を説明したくなるところでしょう。しかし、決算資料はあくまでも要約して伝えるための資料です。どこまで詳しく説明するか、それによって分かりやすさを損なわないようにするバランスは、資料をまとめて制作する者にとって生命線となる感覚です。
もし、この資料が右端の評価だけ、つまり総合評価だけだったら、確かにもっと明快になります。しかし、あまりにも要約しすぎで根拠がわかりにくい資料となります。分かりやすさを重視しすぎてバランスを崩した資料となるでしょう。読み手によっては、資料に対する不信感を覚えるかもしれません。しかし、上記資料を見て分かるように、総合評価を下すために使われた根拠も◎、○、△、Xを付けて説明されています。これがあることで、各事業の現況を明確に把握できるページとなっています。
情報をどのくらいの解像度で見せるかは、決算資料制作担当者の永遠の課題かと思います。GMOの資料の見せ方がいい参考になるかと思います。
これ以上ない明確さでメッセージを伝える
この見出しページはすごいです。見た瞬間、のけぞってしまいました。これ以上メッセージが明確に伝わる力強い見出しページもないのではないでしょうか?内容的にも「強み」だったからこそ作れたページかと思います。前年度まではなかったページです。かなり冒険だったと思いますが成功ではないでしょうか。
ちなみに次のページは、一つ下位見出しとなり以下です。
わかりやすいですね。単に読み手をのけぞらせることが目的ではなく、読んでいる人が今資料のどこにいるのか明確に分かるようにするための気遣いが示されています。資料の作り手として見倣いたいポイントです。
まとめ
GMOインターネットグループ株式会社が2023年2月に発表した「2022年12月期 通期 決算説明会 資料」から、IR資料作成で敷衍して活用できる部分は以下です。
【重要】 1. 最初に読み方のルールを明確に伝えて共有する 2. 従来の見せ方を守って読み手を混乱させない 3. 伝える情報の解像度をよく検討する→詳しければいいわけではない |
とにかく読み手ファーストのページ構成、細かい部分までの気遣いはどんな資料作成でも見倣いたいポイントではないでしょうか?これから各タイミングごとにGMOから発表される資料が楽しみです。
いかがでしたでしょうか?各企業のIR資料には様々な工夫が満載で、参考になるものばかりです。今回は、弊社の視点で解説いたしましたが、また違った見方もできるかもしれません。投資家へ想いを伝え、投資を引き出すツールとしてIR資料作成には悩みが付き物です。是非一度弊社コンサルタントとお打合せください!凝り固まった頭の中が少しばかりほぐれるかもしれません。