株式会社グッドパッチ最新決算説明資料のクリアな資料構成

決算説明会資料・株主総会資料・会社説明資料などのIR資料作成担当者の方にすぐ役立つ情報をお届けします。

株式会社グッドパッチ決算説明資料の明快な資料構成
株式会社グッドパッチ決算説明資料の明快な資料構成
UI/UXやビジネスモデルのデザイン、ソフトウェア開発を行う株式会社グッドパッチが2022年7月に発表した第3四半期決算説明資料から、シンプルかつクリアな資料構成による情報の見せ方について学びましょう。実は、このグッドパッチは決算資料が発表されるたびに、ステークホルダーの方だけでなく、多くの決算資料作成担当者の方が必ずチェックする会社です。デザインを生業としている会社だけあって、決算資料もセンスあふれたお手本と言える情報構成、ページデザインとなっています。

フレンドリーなオリジナルイラストの表紙

まず目を引くのが、コーポレートカラーを用い、フレンドリーなイラストが入った表紙です。オリジナルイラストを大胆に配置した表紙は、これだけで他社との差別化になっています。ここ数年同じイラストとデザインを使用しておりますので、表紙自体が統一感を演出するアイコンとなっていると言えるでしょう。ステークホルダーの方には安心感や安定感を与える仕掛けとなっています。資料名、社名、発表日付などの必要情報はシンプルな游ゴシック系フォントのテキストで掲載しているのでメンテナンス性にも優れています。

考え抜かれた結果のシンプルアジェンダ

株式会社グッドパッチ決算説明資料の明快な資料構成

グッドパッチのアジェンダは実にシンプルで見やすい構成となっています。これだけ見ると誰でも作れそうなアジェンダに見えるかもしれません。しかし、アジェンダの構成づくりは高度なロジカルシンキングが求められる作業です。特に決算説明書は経営陣や社内各部署の思惑や希望を反映しなければなりません。締め切り間近で盛り込むことが求められる情報ほど、既存アジェンダのどこに追加するか頭を悩まされるものです。結果として読み手の利便性や可読性を無視したゴテゴテした資料になりがちです。

IR資料のアジェンダ構成に求められるMECE

IR資料の作成をチームで行う場合は、MECEの思想を統一しておかなければなりません。ロジカルシンキングの解説本で良く解説されるMECEとは、「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字を取って略した言葉です。訳すと「互いに重複せず、全体として漏れがない」になります。要するに「ダブらず漏れなく」ですね。

ちょっと経営コンサルっぽい言葉でいうとグッドパッチのIR資料は「資料の構造化」がしっかりされています。構造化されていない資料は読み手の思考に沿っていないので、読み手を知らず知らずのうちに疲れさせてしまいます。例えば、各事業の業績ハイライトで説明した内容を、各事業の状況で重複して繰り返すと読み手は混乱します。複数部署からの情報をそのまま掲載しているとありがちな事態です。チームでIR資料を作成する場合は、全体の情報の流れをしっかり管轄するポジションのスタッフを置くことが重要となります。

アジェンダと各スライドの関係も構造化

株式会社グッドパッチ決算説明資料の明快な資料構成

冒頭のアジェンダで示されている項目と各スライドが連動していて、それを明示しているのも分かりやすさを演出しているポイントです。グッドパッチの資料は各スライドの上部に「事業内容・デザインパートナー事業・デザイン領域」(上図例)と言った形でスライドの立ち位置を明示しています。

決算資料を読みなれていない方にとっては、ページ数の多い資料は「今自分が何を読んでいるのか、何をポイントにして読み進めればいいのか」をすぐに見失ってしまいがちです。もし上記スライドが「事業内容・デザインパートナー事業・デザイン領域」と明示しておらず「デザイン領域」だけだったとしたら、なぜこのスライドが必要なのか分からなくなる方がほとんどでしょう。しかし、全体資料のなかで自分が今見ているスライドの立ち位置を理解できれば迷子になりません。

小さな記載ですが、資料全体がしっかり構造化されているからこそできる工夫です。アジェンダの構成がころころ変動する資料では、変わるたびにすべてのスライドで修正が入るので、現場ではとても対応しきれないでしょう。IR資料の全体構造を制作前にしっかり設定しておくことの重要性が際立つのではないでしょうか。

加えて、「事業内容・デザインパートナー事業デザイン領域」という感じで、今いるスライドの位置が太字になっているのも細かいですが、読み手を迷子にさせないための重要なポイントです。このような細やかな気遣いの積み重ねが全体の優れたデザインを生み出しています。

テーブルの見せたい部分をカラーアクセントで目立たせる

株式会社グッドパッチ決算説明資料の明快な資料構成

テーブル(表)をまったく使わないIR資料はほとんどないでしょう。しかし、読み手目線を上手にコントロールして伝えたいことを正確に伝えるのは簡単ではありません。

伝えたい側が入れたい数字を漠然と詰め込んで、何をどのように伝えたいのかさっぱりわからなくなっているIR資料も少なくないようです。グッドパッチのテーブルは、どこをポイントに見ればよいのか明確に伝えられるすっきりとしたテーブルのお手本でしょう。バックグラウンド・枠線・フォントの色をコーポレートカラーに変えて強調しています。ヘッダー(項目)部分をグレー塗しているのも、見せたい部分をより目立たせるために効果的に機能しています。

ヘッダー部でスライドのメッセージを明確に伝える

読み手に伝える最重要メッセージを、分かりやすくヘッダー部で説明しているのも見逃せません。これはすべてのスライドで統一して行われている戦略です。読み手の視線を「訓練して」伝えたい情報を伝えるための土台作りがされています。

ワイドサイズのレイアウトに合わせたテーブルレイアウト

補足情報のテキストを右3分の1ほどで説明しているのも効果的です。最近のIR資料は16:9のワイドサイズがスタンダードになっています。従来の4:3から16:9に移行した際には、テーブルの左右スペースが中途半端に空きがちです。そのスペースを埋めるためにテーブルの幅を伸ばしたりすると、ますます間延びして不格好なスライドになってしまいます。憶測ですが、グッドパッチはワイドサイズに移行した際に、テーブルの幅は変えず(または逆に幅を少し狭めて)、右のスペースに補足的なテキスト情報を追加する形に決定したのだと思います。

図形デザインでメッセージを明確に伝える

株式会社グッドパッチ決算説明資料の明快な資料構成

今回のグッドパッチのスライドで、IR資料制作に携わるすべての人を最も驚かせたのはこのスライドでしょう。それほど、このスライドの情報の見せ方は画期的です。事業内容によくある顧客実績の一覧です。明確に2つ(あるいはそれ以上)のグループに分けることが目的であれば、カオスマップのような形式で十分伝わるでしょう。(実際ひとつ前のスライドはカオスマップ的な形式を使っています)しかし、このスライドのように「デザインへのニーズがあらゆる産業に広がっている」といった移り変わりや切り替わりをメッセージとして伝えるのはなかなか至難の業です。

しかし、このスライドはバックの青い図形と各顧客のボックスの配置で時間的な移り変わりと産業の広がりを巧みに表現しています。あえて図形をコーポレートカラーでべた塗にしていることが、事業の安定性や業界内での影響力の高さを伝えています。そして、図形に沿って強調色の矢印を配置することでポジティブなメッセージを見事に強調しています。ここまで明確なメッセージを伝えているにもかかわらず、まったく詰め込み感がないのはデザインの勝利ですね。

まとめ

株式会社グッドパッチの2022年8月期第3四半期決算説明会資料から、IR資料作成で敷衍して活用できる部分は以下です。

【重要】

1. 表紙のパターン化で安定感を演出ワイドレイアウトを活用した情報の配置方法
2. アジェンダはシンプルに。ただし「漏れなく、被りなく」の事前設計必須
3. 各スライドで読み手を迷子にしないデザイン
4. テーブルは読み手の視線をコントロールすることが重要
5. カオスマップの苦手な「移り変わり」を図形で表現

株式会社グッドパッチの決算資料は、発表されるたびに各企業のIR資料作成担当者やデザイナーがチェックして参考にする必見資料です。毎回少しずつデザインチェンジされて、ますます見やすい形になっているのには驚かされます。今回も2021年の資料と比較して、強調色の使い方と使う量、フォントサイズによる強調テクニックが変わっていたのが勉強になりました。

何のためのデザインなのかをよく考えて、制作の際のガバナンスが行き届いている決算資料です。

参考:株式会社グッドパッチ 2022年8月期第3四半期決算説明会資料

IR|Goodpatch グッドパッチ
2022年8月期 第3四半期決算説明資料

いかがでしたでしょうか?各企業のIR資料には様々な工夫が満載で、参考になるものばかりです。今回は、弊社の視点で解説いたしましたが、また違った見方もできるかもしれません。投資家へ想いを伝え、投資を引き出すツールとしてIR資料作成には悩みが付き物です。是非一度弊社コンサルタントとお打合せください!凝り固まった頭の中が少しばかりほぐれるかもしれません。