ラクスル株式会社決算説明資料の明快な資料構成

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ラクスル株式会社決算説明資料の明快な資料構成
印刷機の空き時間など企業の遊休資産を利用するシェアリングエコノミーで存在感を増すラクスル株式会社が2022年6月に発表した第3四半期決算説明資料から、明快な資料構成による情報の見せ方について学びましょう。

ワイドレイアウトを最大限に活用する

まず目を引くのが、16:9のワイドサイズを効果的に使ったレイアウトです。ラクスル株式会社は2021年7月の決算資料からワイド画面のレイアウトを使用しています。2020年以前の決算資料は4:3比率でした。会社内部の資料も含めて、一斉にレイアウトを移行したのかもしれません。最近のIR資料での顕著な流れと言えるでしょう。以前のレイアウトでのラスクルさんの決算資料もすばらしいデザインでしたが、2021年のレイアウト変更後もよく考えられた工夫がなされています。

他社でも決算資料のデザインを4:3→16:9に移行する例はよく見られます。しかし、そのままレイアウトを移行してしまい、左右の余白が広くなりすぎて間延びした印象を与えているレイアウトがよく見られます。ラクスルさんのレイアウトではワイド画面の特性を生かした設計がされています。例えば、以下の「ビジョン/事業概要」ページを見てみましょう。比較のために2020年版の決算資料と並べています。

2022年7月 16:9

ラクスル株式会社決算説明資料

2020年7月 4:3

ラクスル株式会社決算説明資料

どちらもラクスルさんの主要事業を分かりやすく示したページです。ワイドサイズを上手に生かして、左側にスライドのタイトル部分を配置し、右側にメッセージと内容を配置しています。それでも、まったく間延び感もなく、さらにすっきりとした見た目と自然な視線誘導を実現しています。

ちなみに、各事業のアイコン画像は今回と2020年でまったく同じサイズですし、間隔幅もほとんど変わっていません。完成形を知っている状態から見ると、簡単なレイアウト移行のように見えるかもしれません。しかし、実際に4:3の旧ページをワイドレイアウトのページへと移行作業を行おうとすると、安直にアイコンどうしの間隔を広くしたり、アイコン自体をサイズアップしたりしがちです。そうなるとページ全体のバランスがおかしくなりますし、長年決算資料を見てくださっている株主の方々に違和感を与えてしまうかもしれません。

また、レイアウトの変更は個別ページの見え方の調整だけでなく、資料全体を通した統一感を考えながら行わなければなりません。この点でもラクスルさんの決算資料は秀逸と言えるでしょう。

以下のページを見てもわかるように、資料全体を通じて各スライドのタイトルを同じ幅で左に配置しているので実に見やすく、自然に視線が誘導される型がで出来上がっています。さらに、気にならない程度にメッセージ部分(右側)のバックグラウンドを、気にならない程度の薄いグレーにすることで資料全体の統一感を演出しているのも見逃せない点です。ただし、スライドのバックグラウンドを白以外にするのはかなり上級者のテクニックです。ラクスルさんのコーポレートロゴがブラックで、スライド全体をモノクロトーンにしているからこそできたデザインでしょう。

ラクスル株式会社決算説明資料

事業の構成、これからの戦略が明快

ラクスル株式会社決算説明資料

各事業の状況が実に明快にわかる連結業績サマリー(P.2)です。売上、利益の対比が明確にわかりますし、このページを資料のトップに置くことで、読んでいる株主の方に全体のストーリー展開を示す重要な役割を果たしています。

ラクスル株式会社決算説明資料

続いて、各事業の方向性を示す上記ページ(P.6)も秀逸です。ラクスルとしてこれから狙っていく市場の方向性と規模感が実にわかりやすく示されています。タイトルの説明文中にある「統合バーティカルプラットフォーム」を、これ以上分かりやすくできないほどのわかりやすさで図解してくれています。各事業の連動性、関係性について声高に主張する必要もなく自然に示されているのは優れたスライドの証でしょう。

ちなみにスライド中で用いられているTAMはTotal Addressable Market(またはTotal Available Market)の略称で、「ある市場の中で獲得できる可能性のある最大の市場規模」を意味する言葉です。1980年代からマーケティング業界では使われていたワードですが、最近スタートアップやベンチャーの会社説明や決算資料で盛んに使われているワードです。

ラクスル株式会社決算説明資料

続いて上記のP.8では、企業価値を生み出すロジックがプラットフォームの価値→財務→各事業KPIの形で分かりやすく示されています。社内の視点で作成すると、どうしても財務の数値やKPIから説明を始めがちです。しかし、プラットフォームとしての顧客からの信頼を起点にして始めているので社外にも伝わりやすい説明になっています。同じスライド内でKPIまで一貫で説明してくれているので、初めてアスクルの決算資料を読む方でも読み方、資料の見方が分かりやすい構成です。ただ、「売上総利益の最大化を重視する」のであれば、右端の「売上総利益」をもう少し目立つページ構成にしてもよかったのかなとは感じます。

続いて、次のP.9で示されるのが、企業価値の向上をスパイラルで表現したスライドです。成長のスパイラルは、様々な企業の決算資料で使われる概念ですがなかなか図解表現が難しい概念でもあります。ここまでシンプル、かつ分かりやすく示されたスパイラル画像もなかなかありませんし、パワーポイントで合っても比較的制作の参考にしやすい画像構造です。テキストの位置はすべて画像内ではなく、最下部のテキスト以外は画像の右に配置しても見やすいかと思います。

ラクスル株式会社決算説明資料

企業内各事業の現状とこれからの戦略に関する説明の締めとして、事業別の売上高構成比の推移と、各KPIの改善ポイントが示されています。これも、初見であっても簡単にポイントを抑えられる優れた構成のスライドになっています。モノクロを基調としながら、各ブランドカラーを資料中で統一して使用しています。ブランドカラー自体がスライドのアクセントカラーにもなり、単調になりがちなモノクロトーンのスライドを華やかにしてくれています。ここでもワイドレイアウトを巧みに活用して情報を効果的に見せている点も見逃せません。

KPIの改善ポイントについても、詳細に分別しながらも、各ドライバー施策に関してはあくまでシンプルにわかりやすく説明することで一貫しています。ここらへんの見せ方と書き方のバランスは、IR資料担当者としては常に意識しておきたいポイントでしょう。

ラクスル株式会社決算説明資料

ラクスル株式会社決算説明資料

まとめ

ラクスル株式会社の2022年7月期第3四半期決算説明会資料から、IR資料作成で敷衍して活用できる部分は以下です。

【とても重要】

  1. ワイドレイアウトを活用した情報の配置方法
  2. 事業の概要、方向性、現状、改善ポイントが初見でも簡単に把握できるストーリー構成

【実は重要】

  • シンプルな画像
  • ブランドカラーをアクセントカラーとして活用
  • 詳細まで説明するポイントとシンプルに説明するポイントのバランス

ラクスル株式会社の決算資料は、発表されるたびに各企業のIR資料作成担当者やデザイナーがチェックして参考にする必見資料です。

会社説明資料ですが、こちらの資料も超一級のデザインがふんだんに用いられている必見の資料です。複数事業の連動性や関連性について自然にストーリーが進んでいきますので、読み手を困惑させない全体設計になっています。制作の際の資料全体のガバナンスが行き届いている決算資料と言えるでしょう。

参考:ラクスル株式会社 2022年7月期第3四半期決算説明会資料

いかがでしたでしょうか?各企業のIR資料には様々な工夫が満載で、参考になるものばかりです。今回は、弊社の視点で解説いたしましたが、また違った見方もできるかもしれません。投資家へ想いを伝え、投資を引き出すツールとしてIR資料作成には悩みが付き物です。是非一度弊社コンサルタントとお打合せください!凝り固まった頭の中が少しばかりほぐれるかもしれません。