カカクコムの求人ボックスがリクルート系サービスを猛追
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求人ボックス躍進の陰には弱者の戦略あり
求人検索エンジンといえば業界の巨人リクルートの「Indeed(インディード)」を初手に想像される方が多いと思います。
しかし、昨年あたりから「価格.com」や「食べログ」でもおなじみのカカクコムが運営する求人ボックスが、月間利用者数800万人を突破するなど着実にユーザー数を増やしています。
「リクルートにお願いしておけば大丈夫」と思っていた企業・店舗の採用担当者様にとって、もはや軽視できないサービスといっても過言ではありません。
求人ボックスとは
求人ボックスは、「価格.com」や「食べログ」でおなじみのカカクコム社が第3の柱として本気を入れて運営する求人情報の一括検索サービスです。業界最大手サービス「Indeed」と同様、求人サイトや企業の採用サイトに掲載されている求人情報を自動的に収集します。また、店舗や企業が直接投稿された求人ボックスにしかない求人も多くなっています。
ビジネスモデルとしては、Googleのリスティング広告と同様に求人を行いたい企業からクリック型の掲載課金を募るモデルです。
リリースは2015年でしたが、今では300万件以上の求人を掲載しています。2022年最新の月間ユーザー数は800万人を突破したとのことです。元々がアメリカ発のサービス(2012年にリクルートが買収)で世界60か国で展開しているIndeedの月間ユーザー数3600万人には及びませんが、国内の求人検索市場だけに限ればもはや無視できないレベルのサービスです。
求人ボックスのSEO戦略
リリース当初2015年から2018年までは、大巨人Indeedの後塵を拝し正直伸び悩みの感もありました。2位争いをしていたスタンバイからも一歩話されている感もありました。
しかし、さすが「価格.com」や「食べログ」で大きな成功を収めてきたカカクコム社の事業ノウハウを余すところなくぶち込んだ求人ボックスなので、SEO戦略の面でもまったく手を抜いていません。
Ahrefsで求人ボックスのSEO戦略を分析すると以下の特徴が見えてきます。
1. 先行大手のニッチを突く
2. 時代のニーズにすばやく対応
先行大手のニッチを突く
求人ボックスの先行大手は何といってもリクルートでしょう。転職求人はIndeed、バイト・パートはタウンワークと住み分けて求人市場で圧倒的なシェアを誇っています。
ここで圧倒的な先行大手と真っ向勝負しても勝ち目はないでしょう。そこで求人ボックスがSEOで取ったのは徹底的にニッチを突く戦略だったようです。
求人ボックスのニッチ戦略はAhrefsで調査してもわかります。下の表は、大手求人サイトが獲得しているクエリ(キーワード)で、Indeedが取れていないクエリの数です。つまり、数が多いほどIndeedが取れていない(狙っていない)クエリでアクセスを狙っていることになります。
タウンワークは、Indeedと同じリクルート系サイトであり、バイト・パート系に特化するようリクルート内で住み分けされているのでしょう。ですから、最上位にいるのは仕方ありません。
余談ですが、SEO上でもここまできれいにIndeedとタウンワークの住み分け戦略ができているのはさすが王者リクルートというほかありません。
求人ボックスは他の競合サイトを抑えて、最多のクエリ数を獲得していることがわかります。昨年あたりまでリクルート系を追いかける熾烈な2位争いをしていたスタンバイを完全に引き離しています。ここらへんが求人ボックスが大きく躍進した秘密でしょう。
サービス名 | 獲得クエリのうちIndeedが未獲得のクエリ数 |
タウンワーク | 594,437 |
求人ボックス | 345,497 |
バイトル | 236,215 |
イーアイデム | 189,757 |
スタンバイ | 179,645 |
業界大手が狙わない分野を徹底的に狙うニッチSEOの必要性は、これまでもさんざん言われてきました。しかし、それをどれだけ徹底的に継続して行えるかは、ひとえに緻密な事前準備と、経営者の決意次第でしょう。
経営者の決意という面では、ニッチSEOは無駄玉撃ちをある程度許容する事が必要です。ニッチクエリを狙うには、CV(コンバージョン)から少し遠いクエリやCVに近いクエリのなかでも低単価のクエリを狙うことが含まれます。数多く打つなかで少しでも単価の高い(人気の高い)クエリに近づけて行くプロセスが必要です。
Ahrefsを見ると、求人ボックスは6Mのオーガニックトラフィックを獲得するために必要なクエリ数が1.5Mです。クエリとトラフィックの比率は0.25です。一方、Indeedは12.8Mのトラフィックを2.4Mのクエリで獲得しています。比率としては0.19です。
つまり、Indeedの方が絞り込んだクエリで流入を獲得できていることがわかります。求人ボックスは今のところ、アクセスを幅広く取り、これから少しずつビッグクエリや高単価CVクエリを獲得していく戦略です。
時代のニーズにすばやく対応
求人ボックスが、先行大手の弱点を突くニッチSEOをベースにしながら淡々と狙っていたのが、時代のニーズへの迅速な対応だと思われます。
2020年の新型コロナ流行移行、急激にクローズアップされた求人需要は在宅ワーク、そして関連して副業やリモートワークです。
求人ボックスが、新たに出てきた大きなニーズに対して競合に先駆けて対応していることがAhrefsのデータからもうかがい知れます。以下の画像は、Ahrefsで求人ボックスのオーガニック流入を「在宅」「リモート」「テレワーク」「副業」の4つの単語でフィルタリングしたものです。求人ボックスが新型コロナ禍で需要が急激に増加したクエリに対して4,859個獲得していることがわかります。
対して、最大手Indeedの同カテゴリー獲得クエリは以下で分かるように6,466個です。
ドメインの稼働年数、及び全体UU(訪問ユーザー数)の差を考えると求人ボックスが、どれだけ急激に在宅や副業の求人分野でIndeedを猛追してきたかわかるのではないでしょうか?意識的に舵を切らない限り、ここまで短期間でクエリを獲得できるとは思えません。
求人サイトは検索の使いやすさがUX(ユーザーエクスペリエンス)の肝です。サイトの規模が大きくなるほど、検索マスタに一つの要素を追加する改修のインパクトは大きくなります。例えば、検索要素に「在宅の仕事」という項目を追加するだけでも、大型サイトでは一大プロジェクトにならざるを得ません。Indeedやタウンワークが機動的に動けなかった一瞬のタイムラグを求人ボックスがスピーディに攻略していったのだと思われます。
まとめ
どの業界であろうと先行大手は存在します。先行大手の成功例は強烈に記憶に残っていますので、後発である自社の攻め手が見えづらくなることはありませんか?もちろん先行者メリットは存在します。しかし、それ以上に先行者にはデメリットも存在するのです。組織や市場シェアが拡大したからこそ起こるわずかなほころびやもたつき。これこそ、後発企業が突くべきニッチです。もちろん、求人ボックスが持つ資本力や既存ノウハウを考慮すると、完全な弱者とは言えないでしょう。それでも、圧倒的な先行大手に立ち向かう多くの企業の良い手本になる戦略と言えるのではないでしょうか。SEOのようなWebマーケティングであろうと、オフラインマーケティングであろうと変わらない弱者の取るべき戦略なのです。