コロナ禍の一段落、外国人観光客の増加に伴い、ホテル業界でもインバウンドマーケティングがますます重要になっています。しかし、「具体的に何をすべきか分からない」「多文化対応が難しく感じる」といったお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
また、インバウンドマーケティングについて誤った認識を持つ人も少なくありません。一部では「ただ英語のウェブサイトを用意すればいい」という誤解も見受けられますが、それだけでは不十分です。実際には、顧客のニーズを深く理解し、そのニーズに対応したサービスを適切なタイミングと方法で提供することが求められます。
本記事では、ホテル業界におけるインバウンドマーケティングの成功事例とその具体的な実施方法について解説します。また、具体的な改善策の立案方法もご紹介します。
この記事を読むことで、外国人観光客のニーズを深く理解し、サービス向上に繋げることができるでしょう。
ホテル経営成功のための開業準備・マーケティング戦略・成功要因の完全ガイドを併せてご覧ください。
目次
ホテルでのインバウンド需要とは?
「インバウンド」とは、外国からの観光客を指す言葉で、その規模と影響力は近年、世界各地で大きく拡大しています。ホテルや旅館にとって、インバウンドは新たな収益源であると同時に、ブランドの国際的な認知度を高める重要な手段ともなります。
多様な文化背景を持つ外国人観光客は、異なるニーズや期待を持つことから、彼らに対応したサービスを提供することが必要となってきております。これが、ホテルや旅館にとっての「インバウンド需要」です。
ホテルや旅館でインバウンド集客を増やすための5つの施策
ホテルや旅館などの宿泊業界でインバウンド集客を伸ばすための施策には以下があります。
- 無料Wi-Fiの提供
- SNSやオンライン広告を活用したマーケティング
- 文化的配慮とホスピタリティ
- レビューサイトでの評価向上策
- 観光情報提供の強化
それぞれの施策について説明します。
部屋での無料Wi-Fiの提供
自室でストレスなく使用できる無料Wi-Fiの設備は、インバウンドマーケティングの観点から見ても極めて重要な要素となります。海外からの旅行者、特にデジタル世代の観光客は、外国であってもスムーズにインターネットにアクセスしたいという強いニーズがあります。
実際に、2022年のトリップアドバイザーの調査によれば、全体の88%の旅行者がホテル選びにおいて無料Wi-Fiの有無を重視すると回答しています。
SNSやオンライン広告を活用したマーケティング
インバウンドマーケティングにおいては、ターゲットとする外国人観光客の文化や言語、旅行習慣を理解した上でSNSやオンライン広告を活用することが重要です。
例えば、特定の国や地域からの観光客が多い場合、その地域の言語で情報を提供したり、その地域の文化やイベントにリンクした投稿を行う戦略が効果的です。また、訪日観光客がよく利用する旅行サイトやアプリに広告を出稿することも一つの手段です。
文化的配慮とホスピタリティ
外国人観光客へのサービス提供には、その国や地域の文化や風習、言語に配慮することが不可欠です。
例えば、部屋の設備やアメニティ、食事メニューなどもその国の習慣や好みに合わせて調整することが求められます。最低でも英語、中国語、韓国語などの言語での対応が可能なスタッフの配置、多言語対応の案内板やパンフレット、ウェブサイト等が有効です。
レビューサイトでの評価向上策
訪日観光客の多くが旅行の計画や施設の選定にインターネットを利用します。その中でも、レビューサイトは非常に重要な役割を果たしています。
そのため、多言語に対応したレビューの収集や、ネガティブなレビューに対する適切な対応が重要になります。特に、自分の言葉でレビューを書けることは、観光客にとって非常に有益な情報提供となります。
観光情報提供の強化
インバウンド観光客にとって、現地の情報やアクティビティについて知ることは旅行の楽しみの一つです。ホテルや旅館がその役割を果たすことで、観光客は安心して滞在を楽しむことができます。
例えば、英語やその他の外国語での情報提供、地元ならではの観光スポットや飲食店の情報、さらには体験型のアクティビティなどを提案することが有効です。また、観光客の国や地域に応じた情報の提供も求められます。
スリードットの旅館・ホテルオーナー様向き集客システム構築・事業再生コンサルティングについてはこちらをご覧ください。
ホテルのインバウンド施策の3つのメリット
インバウンド需要を取り込むことには、以下のメリットがあります。
- 需要拡大による収益増
- 顧客満足度の向上とリピート顧客の獲得
- ブランドイメージ向上
それぞれのメリットを説明します。
需要拡大による収益増
インバウンド施策は、拡大性のある新興市場を開拓することを可能にします。これにより、特に旅行のオフシーズンなどにおいて、通常の国内客に依存することなく安定した収益を得ることが可能になります。
さらに、異なる国や地域からの旅行者は、それぞれ異なる旅行シーズンを持っている可能性があります。これは収益をさらに安定させ、年間を通して一定の稼働率を保つ助けになります。
顧客満足度の向上とリピート顧客の獲得
高品質のサービスと文化的に適応した体験を提供することで、外国人観光客の満足度を高めることが可能です。これにより、リピート顧客の割合が増えるだけでなく、旅行者が自国に戻った際に口コミで良い評価を伝え、新たな旅行者を引き付ける可能性もあります。
ブランドイメージ向上
国際的な観点からサービスを提供するホテルは、多様な顧客のニーズに対応できるイメージを形成することができます。これはブランドの評価を高め、国内外の顧客からの信頼を得ることにつながります。
さらに、国際的なブランドイメージは、潜在的なパートナーシップや投資家からの関心を引き付ける可能性もあります。
ホテルのインバウンド施策3つのデメリット
ホテルで行うインバウンド政策には以下の注意点があります。
施策導入の初期コスト
インバウンドマーケティング施策の導入は、以下のような初期投資を必要とします。
- 多言語サイトの開設
- スタッフのトレーニング
- 多言語対応のマーケティング資料の作成
これらのコストは特に初期段階で大きく、その収益化までに時間がかかる場合もあります。ただし、適切な計画と実行があれば、これらのコストは長期的には十分に回収可能です。
多文化・多言語対応の難しさ
多様な文化背景を持つ顧客に対応するためには、ホテルスタッフは異なる言語能力と文化理解を身につける必要があります。また、宗教的な制約や食事の好み、慣習など、微細なニーズに対応するためには継続的な教育とトレーニングが必要です。
外国人観光客のニーズの把握
外国人観光客のニーズは、国や地域により大きく異なります。外国人観光客のニーズを把握し、満足させるためには、定期的な市場調査と顧客フィードバックの分析が必要です。
特に、ホテル業界では細部まで気を配ることが求められるため、それらのニーズを満たすための具体的な戦略とプロトコルを持つことが重要です。
成功したホテルのインバウンド集客4事例
ホテル業界において、多様なインバウンド集客戦略が成功を収めており、その一部をここで紹介します。これらの事例を参考に、ご自身のホテルのインバウンド施策に生かしていただければと思います。
SNSを活用(リッツ・カールトン)
SNSの活用による成功事例として、言わずと知れた超高級ホテルであるザ・リッツ・カールトンが挙げられます。同ホテルはInstagramを活用し、宿泊客が自身の体験をハッシュタグとともにシェアするキャンペーンを展開しました。
特に注力したのが、ホテル内の豪華な内装や周辺の観光スポット、美味しい地元の料理など、旅行者が投稿したいと思うような内容を提供することです。
その結果、キャンペーンが開始された当初の数週間で、ホテルの公式アカウントのフォロワー数は20%以上増加しました。さらに、参加者からシェアされた投稿は数千に上り、ホテルの認知度向上に大いに寄与しました。
ローカル体験提供(京都の旅館)
ローカル体験の提供を成功させた事例として、一部の京都の旅館が取り組みを展開しています。京都という地域性を最大限に活用したインバウンド戦略を展開しており、旅館に泊まること自体が一つの体験となるよう工夫しています。
特に注目すべきは、地元の伝統芸能のパフォーマンスの提供や、茶道体験などの文化体験プログラムの整備です。これらの体験は、外国人観光客からの高評価を得ています。体験プログラムを通じて、地元の文化や歴史に対する理解を深めることができ、訪日旅行者にとって一層魅力的な滞在地となっています。
これらの取り組みにより、旅館は宿泊者の満足度を大幅に向上させ、口コミやSNSでの高評価が拡散しました。これが新たな予約へとつながり、売上向上に寄与しています。
多言語対応サービス(東京都内のホテル)
多言語対応サービスの成功事例としては、東京都内のある高級ホテルが挙げられます。このホテルでは、英語、中国語、韓国語はもちろん、スペイン語やフランス語など、さまざまな言語に対応したスタッフを配置しています。
また、ウェブサイトやパンフレット、ルームサービスのメニューなども多言語対応し、外国人旅行者が利用しやすい環境を整えています。特に評価されているのが、独自に開発したスマートフォンアプリで、24時間体制での多言語対応を実現しています。
これらの取り組みにより、ホテルは外国人旅行者から高い評価を受け、リピーターを増やすことに成功しています。また、良好な評価は口コミやレビューサイトにも反映され、新たな旅行者を引き付ける効果をもたらしています。
レビューサイトでの高評価獲得(福岡市)
福岡市は、行政と連携してグルメやショッピング、観光地としての魅力を積極的にアピールしており、その結果、インターネット上のレビューサイトで高評価を獲得しています。
福岡市は、豚骨ラーメンやもつ鍋、焼き鳥など、地元の食文化を体験できる機会が豊富にあります。また、天神地区やキャナルシティ博多などのショッピングエリアも観光客に人気があります。
また、福岡市の公式ウェブサイトやSNSは、観光情報を明確かつ親切に提供しており、訪問者が行きたい場所を見つけやすいようにしています。さらに、観光施設やレストランでは、スタッフが丁寧なサービスを提供することで、訪れた観光客からの高評価を獲得しています。
インバウンドマーケティングの進め方4ステップ
外国人観光客の関心を引きつけ、彼らが自然とあなたのビジネスや地域に訪れるようにする基本ステップは以下です。
- ターゲット設定とニーズの把握
- コンテンツ作成
- コンテンツ発信
- フィードバックの収集と分析
それぞれのステップを説明します。
ターゲット設定とニーズの把握
まずターゲット市場を特定します。あなたのホテルや地域が提供できる体験と、特定の市場の旅行者が求める体験との間に合致点があるかどうかを見極める作業です。
例えば、自然豊かな地域であれば、アウトドア活動を好む旅行者をターゲットにすることができます。
次に、その市場のニーズと期待を理解するために、市場調査を行います。これには、旅行の動機、好み、旅行中に行いたい活動、情報収集方法などが含まれます。
コンテンツ作成
ターゲット市場のニーズに基づいたコンテンツを作成します。それがブログ記事であれば、その地域の観光スポットや飲食店の紹介、地元の文化や歴史についての情報などが考えられます。
コンテンツ発信
作成したコンテンツをウェブサイトやソーシャルメディア、電子メールニュースレターなどを通じてターゲット市場に届けます。
ウェブサイトのコンテンツを検索エンジンで上位表示させるSEO対策は重要になります。また、ソーシャルメディアで有益な情報を共有してフォロワーを増やすこと、ニュースレターを配信して直接顧客とコミュニケーションをとることなども含まれます。
フィードバックをもとにした改善とPDCAサイクル
実施したマーケティング活動の効果を分析し、それに基づいて改善を行うためのフィードバックを収集します。これには、以下KPI(重要業績評価指標)を測定することが含まれます。
- ウェブサイトの訪問者数や滞在時間
- ソーシャルメディアのエンゲージメント数
- 電子メールの開封率やクリック率
分析と改善を繰り返すことで、マーケティング活動を徐々に最適化していきます。これがPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクル、すなわち計画、実行、検証、改善のサイクルです。
インバウンド需要の将来性を占う3ポイント
パンデミックによる一時的なダウンを超えて、長期的に見てインバウンド観光の需要は増大し続けると予測されています。特に、以下の3つのテーマが重要になってくるでしょう。
- アジア地域からの観光需要の増加
- 若年層の旅行者の増加
- 観光地に求められる体験の多様化
それぞれのトピックについて説明します。
アジア市場の拡大
アジア各国の経済成長に伴い、旅行者数は増加傾向にあります。中国をはじめとするアジア市場は、未来のインバウンド需要の大きな源泉となるでしょう。
アジア市場に対するマーケティング戦略を強化し、そのニーズに合わせた情報提供やサービスを検討することが求められます。
若年層の旅行者の増加
若年層の旅行者は、新たな体験を求め、SNSでの情報共有などデジタルな旅行スタイルを好む傾向があります。彼らへのマーケティングは今後の重要な課題となります。
若年層の旅行者が増える中で、デジタルチャネルを通じたマーケティングの重要性はますます高まっています。SEO対策やSNSマーケティング、コンテンツマーケティングなど、デジタルマーケティングの取り組みを進めることが重要です。
多様な体験の求められる観光
伝統的な観光地巡りだけでなく、地元の文化や食事、アウトドア活動など、多様な体験を求める旅行者が増えています。これに対応したサービスの提供が求められます。
地元の文化や食事、アウトドア活動などに対応し、それぞれに対するサービスを強化・拡大することが求められます。これには地域全体での取り組みが必要で、地域の企業や地方自治体、地域住民との連携が鍵となるでしょう。
まとめ
今回は、ホテル業界におけるインバウンドマーケティングの重要性とその具体的な活用方法について説明しました。多文化対応やデジタルマーケティングなど、多くの要素を組み合わせた施策が必要です。
しかし、理解しただけでは十分ではありません。自分たちのホテルのマーケティング戦略を再評価し、インバウンドマーケティングの要素をどの程度取り入れているかをチェックしましょう。そして、本記事の内容を経営陣で共有し、具体的な改善策を立案するために討論することが重要です。
特に、外国人観光客対応の現状と改善点を把握し、具体的な改善策を立案することは、インバウンドマーケティングの成功に不可欠です。その過程で、専門家の意見を求めることも大切です。
以上を踏まえ、今すぐ行動に移しましょう。これからのホテル業界で成功を収めるために、インバウンドマーケティングの活用は必須です。
自社で現在行っているマーケティング施策の戦略性と効果に不安がある場合は、お気軽に弊社コンサルタントにご相談ください。